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ミヤマカラスアゲハの立体標本

3D specimen of Papilio maakii

立体標本とは

ひらひらと空を舞うチョウ、身近でありながら観察の難しい昆虫です。アゲハの仲間はせわしなく花の蜜を吸い、なかなか静止してくれません。苦労して捕まえても網の中で暴れて翅が破れたり、鱗粉(りんぷん)が取れてしまったり。チョウは捕獲が難しい上に、その体も繊細です。

 

このような生き物を観察する手段の一つとして標本があります。一般的なチョウの標本は翅を平面的に広げ、ピンで標本箱に固定します。短時間で作ることができ、省スペースで保管できるメリットがあります。ただ、この方法は種の研究目的で発展してきた保存方法であり、必ずしも生きている時の姿を忠実に残しているわけではありません。

技術が進歩した現代、昆虫を観察する方法として写真や映像、模型(フィギュア)など、様々なメディアがあります。多くの場合それで十分かもしれません。しかしながら本物でしか伝えれらないこともたくさんあります。光の角度によって色が変わる翅、触れただけで取れてしまう微毛、立体感、サイズ感。これらは手に取って初めて感じることができるものです。例えばモルフォの青い翅は光を強く反射しますが、跳ね返ってきた光があまりに強いためにスマホやPCの液晶画面では輝度が足りず、この光をうまく表現できません。実物の青はもっともっと眩しいのです。

博物館に行くと動物や鳥の剥製があります。剥製は生きている時の姿を知ることができ、その大きさや立体感に驚くこともあります。

そこでチョウも剥製のようにできないかと考え、数年前から研究を始めました。​このような形式の標本は昔からありましたが、多くの場合カブトムシやクワガタに限られていました。

 

チョウの標本において、固定用のピンを使用せず、脚だけで生きているような瞬間を固定すること。かつその再現度を世界で例のないレベルまで高めること。

 

これを目指して白紙からスタートしました。数えきれない失敗を繰り返しました。思いついたことはすべて試し、どこにいる時も標本のことを考えていました。そうして3年が経ち、標本の輸送を含めてなんとか形になってきました。

この標本を「立体標本」と呼ぶことにしました。これは一般的に正式な名称ではありません。通常の標本と比較して違いがわかるよう、便宜上このような呼び方をしています。同じような言葉としてライブ標本、生態標本、動態標本などがあります。

 

立体標本の制作は一般的な展翅標本の数百倍も時間を要します。非常に繊細なため、失敗してしまうことも多々あります。制作コストは甚大ですが、この標本でしか感じることのできないディテールとリアリティがあります。

一般的な標本との違い

一般的なチョウの展翅標本

展翅板という道具を用いて、比較的短時間で作成することができます。標本箱に並べて配置することで、多くの個体を省スペースに収納することができます。特に学術研究分野においては最適な標本の作成方法です。

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立体標本

作成に数ヶ月~半年以上を要し、専用のケースで保管します。生きているような姿で360度から観察することができます。

制作について

立体標本制作において最も注力しているのは昆虫の「姿勢」です。例えば私たちが立っている人を見るとき、その人がきちんと直立しているのか、力を抜いているのか、わずかなポーズの差で判断できます。昆虫も同じで、ほんの少し翅の角度や脚先のしなりが違和感につながります。

そして、どんな瞬間を固定するのか。その種を象徴し、普遍的で何気ない瞬間を選ぶようにしています。アゲハであれば羽ばたきながら花で吸蜜している姿、タテハチョウであれば木の幹や地面にとまって翅を開いている様子です。長い時間をかけ、可能な限り繊細に作り込んでいます。

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チョウはただ翅を開いただけでは飛んでいるように見えません。翅は4枚あり、それぞれ別の動き方をします。この4枚が最適な位置に固定されて初めて「羽ばたき」が感じられるようになります。

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羽ばたくチョウの浮遊感を表現するには脚先が重要です。脚の位置と曲げ角度を細かく調整し、今にも浮き上がりそうな体を表現します。これには長い熟練を要します。また、ベースと接する箇所は限りなく自然に接着しています。

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腹部

チョウは標本にすると乾燥で腹部がしぼんでしまいます。特殊な処理を施すことにより、腹部の膨らみを再現しています。

※再現できる種類は限られます。

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​口吻

蜜を吸うための長い口吻は普段クルクルと巻いています。大型のアゲハ類はこの丸の直径が大きいのが特徴です。乾燥時に小さく縮れてしまう現象を抑制し、生体時の大きさを再現しています。

レイアウト

チョウの有機的なフォルムが際立つよう、それ以外をシンプルに抑えています。木製のブロック、または細いワイヤーにとまらせることで高さを出し、チョウの浮遊感を表現しています。下側から観察しやすいのもメリットです。

チョウがとまるブロックと下部のベースはどちらも無垢の板から削り出しています。ケース全体の調和をとりながらチョウが引き立つよう、一つ一つ個体の色に合わせてベースを着彩しています。

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ケース

標本を保護するケースにはUVカットアクリルを使用しています。アクリルは傷がつきやすい反面、ガラスよりも透明度が高く、軽量で割れないという特長があります。また紫外線カット効果はガラスの3倍以上、さらにUVカットアクリルを用いることで97%の紫外線を遮断します。

ケース内には二酸化炭素を充填させたのち下部のベースと接着、接合部にシリコンを注入して密封しています。その後数ヶ月の間冷暗所にて保管、姿勢の変化がないことを確認してから販売となります。

ケースを開けることはできませんが、長期にわたり酸化と害虫を抑制します。メンテナンスフリーで、標本の取り扱いに慣れていない方でも安心です。

※ 保管場所の温度、湿度、長時間の強い光には注意してください。

販売と配送方法

立体標本は当社のオンラインストアでのみ販売しています(メニューのSHOPからご覧いただけます)。繊細な標本を安全に輸送するため独自の梱包方法を採用し、ケースを楽に取り出せる工夫も施しました。無骨な見た目ではありますが安全にお届けすることを第一に考え、このような梱包に至っております。何卒ご理解いただけますと幸いです。

購入後のお取り扱いについて

標本ケースは涼しく湿度の高くない場所で保管してください。チョウの翅は紫外線で退色が起こります。アクリルケースはUVカット仕様となっておりますので、退色の一因となる紫外線を97%以上除去しますが、完全に遮断するものではありません。また可視光線でもゆっくりと退色は進みます。普段は戸棚など光の当たらない場所に保管し、観察時に取り出すのが推奨の管理方法です。長期間にわたり鮮やかな色を保ちます。

室内の照明下に置く場合はLED照明が適しています。紫外線をほとんど含みません。

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